十三度半の傾斜《けいしゃ》をもち、太陽に対して一年を周期とする大きなかぶりを振っている。だから、温帯では春夏秋冬がいい割合に訪れて生物を和《やわら》げてくれるが、赤道附近では一年中が夏であり、極地附近は一年中が氷雪《ひょうせつ》に閉《と》じこめられている。シベリア一帯などもかなり極地的であって、寒帯と呼ばれる地域が大部分を占めている。さてこそ、やむなくそこへ逃げこんで一命《いちめい》をもちこたえたのはいいが、後になってくしゃみの連発に気をくさらす者も出来てくる始末であった。これを思えば、なるほど“シベリアから雪と氷とを永遠に追放せよ”との叫びも、彼らの衷心《ちゅうしん》からほとばしり出《い》でた言葉であることが肯《うなず》かれもし、そして又、そのように途方《とほう》もない夢を画《えが》くことによって僅かに自分を慰めなければならぬほど、窮乏《きゅうぼう》のどん底へ陥ってしまったのだとも云える。
 しかし、それは普通人の見方というものであって、金博士に限っては(そうだ、なぜそれを早くやらないのか)といいたげである。
 地軸を廻せば、雪と氷とを追放することなんか訳なしだ、と博士は思っている。
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