たとえば仮《か》りに北極をワシントンへ持っていったとしたらどうであろうか。シベリアの氷雪はたちまち融《と》け去り、さぞ御迷惑《ごめいわく》なこととは思うが、北米合衆国全土は美しき雪原《せつげん》と氷山とに化してしまい、凍結元祖屋《とうけつがんそや》さんだけに有終《ゆうしゅう》の美《び》をなしたと、枢軸国側《すうじくこくがわ》から拍手喝采《はくしゅかっさい》を送られることになろうもしれぬのである。しかし、そのときには寒帯の方の国は、アメリカとは大反対に、躍りあがってよろこぶことであろう。
 かようにして、金博士が地軸を廻せば、新北極や新南極に当った土地の住民は、ぶうぶう云うか、感冒《かんぼう》に罹《かか》って死ぬるのが落ちであろうが、寒帯から一躍温帯に変ったかのエスキモー人など、どのように瞳を輝かして、あのあざらしの服を脱ぎ、俄《にわか》に咲き乱れる百花に酔うであろうか。
 いや、アメリカのことや、エスキモーのことなどはどうでもよろしい。肝腎《かんじん》のシベリアの話を書き綴《つづ》らねばなるまい。


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 さてもさてもここはシベリアの新モスクバである。
 ネルスキー特使
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