が泣き言をならべていったように、今この土地は吹雪《ふぶき》と厳氷《げんぴょう》とに閉じこめられている。
新クレムリン宮殿は、突兀《とつこつ》たる氷山の如く擬装《ぎそう》されてあった。中ではペチカがしきりに燃えていて、どの室《へや》も、頭の痛くなるほど饐《す》えくさかった。宰相公室《さいしょうこうしつ》においては、例のネルスキー特使が、いかにも宰相らしく装《よそお》って、大きな椅子に腰をかけていた。
そこへ運送相《うんそうしょう》クレメンスキーが呼ばれた。
「やれクレメンスキーか、待ち兼ねたぞ」と、ネルスキーは宰相そっくりの声で、「で、早速《さっそく》たずねるが、あの一件はどうした。たしかに先方へ届いたか」
「宰相閣下、あの一件と申しますと……」
「あの一件を忘れているようじゃ困る。ほら、あれじゃ、燻製《くんせい》のあれを、ほら中国の金博士に届けろといったあれだ。まだ届けてないんだな、こいつ奴《め》」
「いやいやいや、とんでもない。金博士のところへお届けする燻製十箱は、もう三日も前に向うへ着いています。そのことは、書類でもって御報告して置きました筈《はず》ですが」
「なんだ三日前に届
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