不凍港《ふとうこう》にして貰いたいというのだ。シベリアに棲《す》むのに、毛皮の外套《がいとう》なんか用なしにして呉《く》れというのだ。ペチカも不要、犬橇《いぬそり》なんかおかしくて誰が使うかという風に笑い話の出来るようにして貰いたいのだ。いや、もう何もいうまい。われわれが抱いていた夢はすべて消えた。科学の魔王金博士が健在なる間は、われわれの望みはきっと実現されるものと思っていたが、そもそもそれが思い違いだった。なにが科学の魔王だ。シベリアから雪と氷とを追放するぐらいのことが出来ないで、へん、何が金博士さまだ」
「やろうと思えば、そんなことぐらい訳なしだ」
 金博士が、西瓜を噛みくだく間に、ぽつんぽつんと言葉を挟《はさ》んでいった。
「ええええええっ!」
 と、ネルスキー特使は、金博士の言葉をきいて椅子からすべり落ちた。よほどおどろいたものと見える。
「あれっ、早《はや》もう重心方向が変ったかな。この太っちょの特使閣下が安定を欠《か》いて椅子から滑り落ちるとは……」
 金博士は、人のわるいことをいう。
 ネルスキーは、腰のあたりを痛そうにさすりながら立ち上ったが、彼はすぐ金博士の手をとっ
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