だいしょうそう》のしるしである。
「おお金博士、なぜ黙って居られる。ふん、そうか。さっきから、わしがあれほどくどくどといっても返事をしないところをみると、さすがの金博士も、わが宰相が持ちだした問題があまりにむつかしいために、手出しが出来ないのだな。それに違いない。それ故《ゆえ》、ろくろく口もきかないのだ」
 ネルスキーは、ついに勘忍袋の緒を切らしたという風に、あくどい罵言《ばげん》をはきはじめた。それでも金博士は、やはり西瓜の種を喰《くら》うことだけに口をうごかして、ネルスキーのためには応《こた》えない。が、今度だけは博士の眼がぎょろりと光ったのは、多少ともネルスキーの言葉が博士の皮膚の下まで刺《さ》したものらしい。
「そうじゃないかね金博士。お前さんは、この広い世界に只一人しかいないオールマイティーの科学者だということであるが、へん、オールマイティーが聞いてあきれるよ。ダイヤのクイーンか、クラブのジャックぐらいのところだろう。ねえ、そうじゃないか。わが聯邦が今死守しているシベリア地方から、あの呪《のろ》わしい雪と氷とを奪い去るくらいのことが、お前さんに出来ないのかね。シベリアの各港を
前へ 次へ
全22ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング