ていったことである。
「それは有難う。では九万ルーブル、いただきましょう、ネルスキー」
「えっ、君は手を出したね。じゃあ、金博士はまだ生きていたんだね。ウラー、九万ルーブルはやすい。その倍を支払うよ。さあ、銀行まで来たまえ。どうせ君は、金を受取らなきゃ、喋《しゃべ》りゃすまいから……」
 十八万ルーブルは、相当かさばって、ポケットに入りにくいものだと感じながら、わたくしはぼつぼつネルスキー特使閣下の質問に答えていた。
「……ねえ、金博士は、上海の邸《やしき》で、時限爆弾にやられて死んだという噂なんだよ。いや、噂だけではない、わしも実地検証《じっちけんしょう》をしたが、博士が爆発のとき居たという場所は、すっかり土が抉《えぐ》られてしまって大穴となっている。かりそめにも、博士の肉一片《にくいっぺん》すら、そこに残っているとは思えないのじゃよ」
「あほらしい。金博士ともあろうものが、死んだりするものですか」
「いくら金博士でも、身は木石《ぼくせき》ならずではないか」
「それはそうです。木石ならずですが、たとい爆弾をなげつけられようとも、決して死ぬものですか。おしえましょうか。あのとき博士は、
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