、ごったがえしをしている有様を見て愕いた。
「ど、どうしたのかね、この体《てい》たらくは……」
ネルスキーは、そのうちの一人の腕をとらえて質問を浴《あび》せかけた。
「さあ、私は訳をよくは存知ませんがね、とにかく冷房装置をここ一時間のうちに取りつけろという御命令です」
「冷房装置を? ふふん、それは宰相閣下の御命令なのか」
「いや、私の受けたのは、気象委員部からです。これはここだけの話ですが、宰相閣下は暑さ負けがせられて、心臓に氷をあてておやすみ中だとの噂がありますよ」
「それはデマだろう。宰相閣下はあのとおり丈夫な方で……いや、しかしこのような温気《おんき》には初めて遭《あ》われて、おまごつきかもしれない。おい、貴公は寒暖計を持っているか」
「私は持って居りませんが、この壁にかかっています。これは自記寒暖計《じきかんだんけい》ですよ。ほう、只今|摂氏《せっし》の二十七度です。暑いのも道理ですなあ」
「ほう、二十七度か。うん、シベリアがウクライナ以上の豊庫《ほうこ》になる日が来たぞ」
「これをごらんなさい。全くふしぎなことがあるのですよ。今からたった十分前が摂氏二十度です。気温は急速
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