に騰《のぼ》りつつあります。おや、また騰りましたよ。いま正に摂氏の三十度。私はもう蒸し殺されそうです。失礼ですが上衣《うわぎ》を脱がせて頂かねば、生命《いのち》が保《も》ちません」
「なるほど、これは暑くて苦しい。わしも上衣を脱ごう。ついでにズボンも外《はず》そう」
「ふう、暑い暑い。これは一体どういうわけですかな。急に気温は騰るわ、雪は融けるわ、その水蒸気のせいで湿度百パーセント、なんという蒸し暑さでしょう」
「なるほどなるほど、宰相閣下が氷の塊を心臓の上におのせになるのも無理ではない」
といっているとき、部屋の中からは、一人の役人が、頭から湯気《ゆげ》を立てて、まるで茹《う》で蛸《だこ》のような真赤な顔で飛び出してきた。
「おい、氷はないか。さっきまで全国どこでも有りあまった氷が、今はどこへ電話をかけても無いそうじゃ。懸賞金を出すから、誰でも外へいって氷を持ってこい。宰相閣下の心臓が心配だ」
といっているところへ、これは廊下をばたばたと駈けて来た裸の役人がいた。
「たいへんたいへん、大洪水《だいこうずい》だ。何しろ氷山も雪原《せつげん》も一度に融けだしたんだから、町という町、防
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