や偉大なものじゃ、豪《えら》いものじゃ」
「これはこれは過分なる御褒《おほ》めの言葉で恐れ入ります。本員といたしましては……」
「莫迦《ばか》、今のはお前を褒めたのではない。はきちがえるな」
「はあ。それは御卑怯《ごひきょう》というものです。私と電話でお話になっていて、御褒めになったのですから、これはどうしても私の取得《しゅとく》です。そうではありませんか、宰相閣下」
 その返事の代りに電話機の掛けられたがちゃりという音が、ペチカ委員の耳に入ったばかりであった。彼は大きな白熊を取り逃がしたように思ったが、しかしもう少しネルスキーの気のつき方が遅ければ、既にゲペウの手に懸《かか》って始末されていたかもしれないのであった。


     5


 ネルスキーは、廊下を飛ぶように駈けて、早速《さっそく》宰相室へいった。それは、今シベリアに不定期の春が来たことを告げて、香港《ホンコン》会談における彼の功績を宰相に認識せしめんがためであった。
 彼が宰相室の前までいったとき、その入口で、沢山の宮廷委員がモートルを担《かつ》いだり、蛇管《だかん》を持ったり、電纜《でんらん》を曳《ひ》きずったりして
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