大きく嘆息《たんそく》をした。
「すると君は、あの不幸な青年たちが、この器械にかかったというのかネ」
「懸ることもあるだろうと思う程度だ。断定はしない。しかし……」と彼は急に眉を顰《しか》めて窓外を見た。「若《も》しこの窓から人間が入って来ることがありとすればだネ、これはもっとハッキリする」
「なにかそんな手懸りになるものがあるか知ら?」
 私は窓から首をつき出して外を見た。
「呀《あ》ッ!」
 そこの窓から見上げた拍子《ひょうし》に、石炭の入った吊り籠がユラリユラリと頭の上を昇ってゆくのが見えた。
「どうした」と辻永は私の背について窓外《そうがい》を見た。「オヤ、偶然かも知れないが、面白いものがあるネ。ここに通風窓《つうふうまど》があって窓の外へ一メートルも出ている。ホラ見給え、家に近い方の隅《すみ》っこに、小さい石炭の粉がすこし溜っているじゃないか」
「なるほど、君の眼は早いな」
「だからネ、もし石炭の吊り籠の上に人間が乗っていて、それが下へ落ちると、地上へは落ちないでこの通風窓にひっかかることだろう。すると勢いでスルスルとこの室に滑りこんでくることが想像できる。滑りこんだが最後、この恐ろしい器械群だ」
「吊り籠に若し人間が乗っていたとしても、この窓にばかり降ってくるなどとは考えられない」
「うん。ところがアレを見給え」と辻永は窓から半身を乗り出して頭上を指した。「あすこのところに腕金《うでがね》が門のような形になって突き出ているのだ。あの吊り籠が石炭だけを積んでいたのでは、苦もなくあの下をくぐることが出来るが、もし長い人間の身体が載っていたとしたら、あの腕金に閊《つか》えて忽《たちま》ち下へ墜ちてくるだろう」
「なるほど、そうなっているネ」と私はいよいよ友人の炯眼《けいがん》に駭《おどろ》かされた。
「しかしもう一つ考えなければならぬ条件は、吊り籠に載《の》っていた人間は気を失っていたということだ」
「ほほう」
「気が確かならば、オメオメこんな上まで搬《はこ》ばれて来るわけはないし、若《も》し身体が縛りつけられてあったとしたら、下へは墜ちることが出来なかろう。さア、とにかくあのケーブルが怪《あや》しいとなると、吊り籠の先生、どこから人間の身体を積んできたかという問題だ。下へ降りて石炭貯蔵場まで行ってみようよ」


     3


 下へ降りてみるとなるほど石
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