職務がそれなんですからね。もっとも私は今日容疑者から話を聞き出します。そしてあべこべに鑑識課や裁判医に資料を提供してやろうとまで考えているんですがね」
「ところが裁判医が死因を究明する力なしとその不明を詫びているんだから、困ったもんだね」
検事が苦笑した。
「ねえ検事さん。あなたは本当に捜査をご破算にして出発点へかえられたんですか」
ずっと沈黙して、聞き手に廻っていた帆村荘六が、そういって口を切った。
「わざわざ嘘をいうつもりはないよ」
「そうですか。同じ心臓麻痺にしても、中毒による場合と、驚愕による場合とは大いに違うと思うんですが、あなたはどっちだとお思いなんですか」
「出発点にかえったといったろう。だからこれから捜査のやり直しだ」
「本当ですかあ。しかし今までに調べたことが全部だめというわけじゃないでしょう」
「一応白紙に還る。面倒でも、もう一度やりなおしだ。この小さい卓子《テーブル》の上に載っている料理の皿や酒なども、もう一度始めから調べ直すつもりだ」
「ああ、それは実に結構ですね。いや、これはお見それいたしまして、たいへん失礼しました」
帆村はそういって、頭を掻いた。帆村
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