接した最後の者でありますぞ。そして自分のハンドバグを残留してこの屋敷を飛出したほどの狼狽ぶりを示している。一体あの女のこの周章狼狽は何から起ったことでしょうか。これこそ乃《すなわ》ちあの女が当夜鶴彌に毒を盛ったことを示唆している。自分で毒を盛ったが、それに愕いて、急いで逃げ出した。そしてハンドバグを忘れて来てしまった」
「どういうわけで土居三津子はあの屋敷から急いで出たというのかな。その点はどう考えるのか、大寺君」
「アリバイの関係ですよ。土居があの屋敷に残留しているうちに毒が廻って鶴彌が死んでしまったら、あの女の犯行であることは直ちにバレちまって逮捕される。それをおそれて、急いで逃げ出したんですな。あの女が去って後で鶴彌が死んだとなると、あの女は有力なアリバイを持つことになる。もっともハンドバグを忘れるようなヘマをやっては何事も水の泡ですがね」
「どんな方法によって中毒させたか。それはどうなんだね」
と、検事は事のついでに、この自信満々の主に糺《ただ》した。
「それは私の領分じゃないんですよ。鑑識課員と裁判医は、それについてもっと明確な報告をしてくれなければならんと思う。あの連中の
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