件の部屋へと一同に移動を促した。
鶴彌の死んでいた例の広間は、事件当時と同じ状態に置かれてあったが、ただ部屋の中心の皮椅子にもはや鶴彌の惨死体は見当らず、そこが大木の空洞のようにぽっかりと明いていて、その見えないものが反って一種異様な凄愴な気分をこの部屋に加えていた。その皮椅子の空洞にもう少し近づいて中を覗きこんだ者は、そこでもう一つ違った刺戟を受けるであろう。それは皮椅子の底に、艶めかしいハンドバグが貼りついたように捨て置かれてあることだった。もちろんこのハンドバグは、旗田鶴彌殺しの第一の容疑者である土居三津子の所有物であり、それは当夜屍体の下敷きになっていたものであることは読者の記憶にあるとおりだ。
さて今日は、いよいよこの土居三津子がこの部屋に呼ばれることになっていた。前日三津子は護送自動車で玄関先まで来たのであるが、鶴彌の死因についての裁判医の鑑識があまりにも意外な結果を公表したので、三津子の取調べは昨日は急に延期となったものであった。
「土居三津子はまだ到着しませんが、間もなく――そう、あと十五分位したら到着する筈だ。それまでに今日までの捜査結果の概要を復習して置こう。な
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