「ふーン、すると誰がやった仕業かな」
「ああ、それがよくない」
 帆村が舌打ちをした。
「まだ実証上の条件が揃っていないのに、軽々に人物を決めてかかるのはよくない。非常に危険なことだ」
「だけれど、僕は君のように冷静ばかりで押して行けないよ。だってそうじゃないか、僕の妹が絞首台へ送られるか送られないですむかの瀬戸際に今立っているんだからね。一秒でも早く犯人を突留めたい。犯人らしい有力者でもいいが……」
「深く同情する。しかしそういう場合であるが故に、一層君は冷静でなくてはならないと思う」
「いや、僕はもう我慢が出来ない。皆はっきりさせてしまわないでは居られないんだ」
 土居は激しく喘いだ。
「ピストルをぶっ放したのは誰だ。そのピストルは家政婦の部屋から出て来た。家政婦が撃ったに違いない。家政婦は旗田鶴彌に深い恨みを抱いていたんだ」
「家政婦が撃ったと決めるのは軽卒に過ぎる。家政婦があのピストルを使ったものなら、花活の中なんかにピストルを隠しておくものか。部屋を調べりゃすぐ分るからね」
「そうでない。巧妙な隠匿場所だ」
「それに、あのピストルの弾丸が、どの方向から、そしてどんな距離から飛
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