間、決して主人のところへ行って彼を殺さなかったという証明が出来てもいいんです。これにもいろいろの場合があるが、例えばですね、その一時間半に亙って、小林さんは自分の部屋から一歩も外へ出なかったということを、あなたが証明出来るなら、小林さんは晴天白日の身の上になれるんです。どうですか芝山さん」
 帆村のこの言葉は、芝山宇平を痛烈に突き刺したようであった。芝山は、いきなり腕を前に振ると、頭を両腕の中に抱えて俯伏した。そしてなかなか顔をあげなかった。
 このとき一座の視線は、この芝山と帆村とに集っていた。
 やや暫く経って、芝山は顔をあげた。真赤な顔をしていた。
「どうか、おトメさんに会わせて下さい」
 彼は切ない声でいった。
「小林さんは重大なる容疑者になっているから、今君を会わせることは出来ないですよ」
「そうですか」力なく彼は肯いた。
「じゃあもう仕様がない。何もかも申上げます。実はわしは昨夜十一時から今朝まで、おトメさんの部屋にいました。だからおトメさんが、今あなたが仰有った十一時から一時間半は、あの部屋から一寸も出たことがないのです。つまり、おトメさんの部屋で、わしがおトメさんの横に
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