お末は年齢からいえば二十二歳という娘ざかりであったが、しかし一同の前に現われたお末なる女は予想に反して、もっと年をとった、そして黄色く乾涸びたような貧弱な暗い女性だった。痩せた顔は花王石鹸の商標のように反りかえっていて、とびだしたような大きな目の上には、厚いレンズの近視鏡をかけていた。
 だが、検事たちの前に立ったお末の態度はすこしもおどおどしたところがなく、むしろ検事達の方が圧倒されるくらいのものであった。
 型の通りの訊問があった後、昨夜のお末の動静を訊ねたところ、
「夕刻の六時にお暇を頂きまして、それから河田町にございますミヤコ缶詰工場へ出勤いたしました。そこで私は九時まで勤めました。仕事は缶詰の衛生度の抜き試験でございます。九時十五分頃工場を出まして、電車で新宿に出、それから旭町のアパートへ帰りました。昨夜は疲れて居りましたので、いつもの勉強はやめて、入浴して十時半に寝ました。それから今朝は六時すこし廻ったころに、この邸へ着きましてございます」
 そういい終えるとお末は丁寧にお辞儀をした。
 検事たちは愕いた。この女は昼間はこの邸で働きをし、夜は夜で工場で働いているとは、
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