今朝見ましてございますが、それが初めてでな、前には見たことがございません」
「あの娘が主人を殺した犯人だとは思わないか」
「存じません。全く存じません」
「亀之介という人は怪しいとは思わないか。なんかそれに関して知らないか」
「存じませんです。何にも存じません」
「じゃあ家政婦の小林はどうだ」
「おトメさん? おトメさんは大丈夫です。そんなことの出来るような女じゃありません」
「君はどうだ。犯人じゃないか」
「と、とんでもない……」
「お手伝いのお末というのは怪しくないか」
「あれは真面目な感心な娘で、これも間違いございません」
「亀之介と小林との間に、何か睨み合うような事情があるのを知っているか」
「ええっ、何と仰有る……」と芝山は顔を固くして聞きかえしたが、「そんなことは、ないと思いますよ。とにかくわしの存じませんことで……」と答えたが、なぜかその返答には不透明なものが交っているように思われた。
「いや、ご苦労。そのへんで結構。まあ引取って、あっちで休んでいるように」
検事はそういって芝山宇平を退らせた。
さてそのあとに、お手伝いのお末が警官につき添われて、検事たちの前に現れた
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