、早く社へ出ることになっていた。それで僕は、妹にかまわず家を出たんだ。そうだ、あれは七時だったよ」
「なるほど」
そういって帆村はオーバーの襟をたてた。濠ばたを、春寒むの風が吹く。
「社へ出て、ひっかかりの仕事を大体片づけてほっと一息ついたところへ、木村という同じ部の記者が入って来て、ちょっとと蔭へ僕を呼ぶんだ。僕は何の気なしに彼の方へ寄って行くと、『おい土居、君の妹さんが警視庁へ引かれている事を知っているか』というだしぬけの質問だ。僕はそれを聞くと、全身が急にがたがた慄えだした。『知らなかったが、一体どうしたんだ。教えてくれ』と木村にすがりつくと、木村の曰く、『うちの三上――本庁詰の記者だ――その三上が知らせて寄越したんだ、なんでも殺人容疑者となっている。そして妹さんは今朝、被害者邸に居て、そこから引かれたこと、妹さんが今日早朝、被害者邸を訪問したことがぬきさしならぬ嫌疑となったらしい』という話。僕は気が変になりそうになったが、それを堪えて木村にいろいろ質問を浴びせかけたが、それ以上の深いことを彼は知らず、また三上も知らないことが分った。ただ木村のいうのには、この際一刻も早く妹さん
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