分以後は……」
「はい。私は自分の部屋へ引取りまして、そして睡りましてございます。あのウ……」
 家政婦は途中でいい淀んだ。
「隠さないで、はっきりいわなきゃいけないね。たとえ誰に迷惑が懸りそうなことであっても」
「はい」家政婦は検事の言葉にぴくりと肩を動かしてから「あのウ、旦那様の弟御さまの亀之介さまが二時にお帰りになりまして、玄関のベルをお押しになりました。そのときだけ私は起き出しまして、亀之介さまを家へお入れいたしました。その後は又寝床に入りまして朝までぐっすり寝込みましてございます」
「それから……」
「それから朝になりまして、五時半に起きましていつものように朝食の用意にかかりましてございます。すると誰か入って来まして声を私にかけた者がございます。見ますと、それが……それが例の娘さんなのでございました」
「ふん、土居三津子だったのか」
「はい」
「それは何時かね」
「六時過ぎだと思いますが、正確には憶えて居りません」
「土居三津子は、君に何といったか」
「昨夜ハンドバグを御主人の部屋に置き忘れて帰ったので、それを返してもらいたいと仰有《おっしゃ》いました」
「土居三津子がはっき
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