「はい」
「小林さんはこの邸に住み込みなんだってね」
 検事がまずやさしい訊問から始めた。
「はい。さようでございます」
「そして昨日は、夕方以来どこへも外出せず今朝までこの邸の中にいたそうだね」
「はい」
「亡くなった御主人に最後に会ったのは何時かね。そしてそれは何処であったかね」
「こちらの方にも申上げたのでございますけれど」
 と家政婦は警部の方へちらと目を走らせ、
「いつものように、私は昨夜九時五分過ぎにお夜食の皿やコップなどを盆にのせました。それが最後でございました」
「御主人はいつも夜食をとるのかね」
「はい。ちょうどその頃までに旦那様はお仕事をお切上げになります。そして一日の疲れを、洋酒と夜食とでお直しになるのでございます。この日課は毎日同じようにつづいて居りました」
 そういった家政婦は、そこでちょっと唇を噛んだ。
「この小卓子の上に並んでいるものが、そうなんだね」
「はあ、さようでございます」
「そのとき御主人は、この室内に居られたのかね」
「はい」
「どこに居られたかね」
「私が扉をノックしますと、室内からご返事がありました。そこで私は扉を開いて中に入りましてご
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