―と、これだけの場合があるわけですね……。とにかくごらんのとおり籠の中には小鳥が居ない。そして空っぽの鳥籠だけがここに置いてある。なんという意地のわるいことでしょうねえ。いや、果してこれは偶然の神がこの意地わるをしたのか、それとも犯人がこの意地わるを試みたのか。警部さん、御感想はいかがです」
帆村の長広舌を聞いている間に、警部の汗はすうっと引込んでしまうし、顔色も元に戻ってしまった。そして警部はここで、用意しておいた次の言葉で帆村に酬いた。
「そう君のように、何でもかんでも目につくものについて、起り得るあらゆる場合を検討していったんじゃあ、事件の犯人を捕えるまでに何年かかるか分りゃしない。いや、本当にそんなゆっくりしたことをすると、犯人はみんな笑いながら逃げてしまって、一人として捕りやしませんぜ。その結果われわれは、年中たいへんな悪口の前に曝し者になっていなければならない。おお、やり切れない」
警部の言葉を、帆村はいちいち肯きながら終りまで傾聴していた。
「いや警部さん。あなたがたが常に大車輪になって活動することを要求せられている現状を、まことにお気の毒に思います。予算をうんと殖や
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