だした。

   青い鳥籠

 帆村は右手を肩の高さにあげて歩いている。帆村のすぐ後に、ぴったり寄り添ったように同じ歩速で歩いている大寺警部の前へつきだした顔が、見えない紐につながれて、帆村の右手で引張って行かれるようであった。
 二人は、昨夜来開かれている窓の下を通り過ぎ、その隣の窓のところまで行ったが、そこで帆村はぴたりと足を停めた。
「ここに鳥籠がございますね。私はちょっと面白いと思います。いかがですか」
 帆村の指が指したところに、籠をうすい青に塗った吊下げ式の鳥籠があった。絨毯の上にどっしりした台を置き、そこから上に向って人の背丈よりもやや高く架台があって、その架台の先が提灯をかけるように曲って横に出ているが、その鈎《かぎ》に鳥籠が下げられているのだった。
「ああ、鳥籠……」
 と、大寺警部は思わず早口にいって、後の言葉を呑みこんだ。彼の身体の中が、俄にかっと熱くなった。それは、帆村に注意されて始めてこの鳥籠に気がつき、そして狼狽したというわけではなかった。ここに鳥籠があるのは、この部屋に入ったときにすぐ気がついていた。だから、警部がかあっと身の内を熱くしたのは、そのことでは
前へ 次へ
全157ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング