ケットから白いハンカチーフを出して卓上にひろげた。それから彼はすこし前にかがみこんで、手を灰皿へ伸ばした。彼の両手の指が、灰皿の上の黒ずんだ灰を――紙を焼いたらしい灰であるが、それをそっと持ちあげ、ハンカチーフの上へ移した。灰は案外にしゃちほこばっていて、途中で崩れるようなことはなかった。
彼は急いで灰をハンカチーフの中に丸めこみ、上衣の左のポケットへ押しこんだ。彼の仕事は、まだそれで終ったのではなかった。彼は右のポケットから白い紙を折り畳んだものを引張り出した。それを指でつまんでひろげた。四つ折になっていた純白の無罫のレター・ペーパーだった。それを灰皿の上へ持っていった。それからライターを出して火をつけた。ライターの焔を、紙へ移した。紙はめらめらと燃えあがった。そしてあとに黒ずんだ灰を灰皿の上いっぱいに残した。彼は煙草を一本つまみだして口にくわえた。そしてこれに火を点じて、急いで煙を吸った。が、たちまちはげしく咳きこんだ。煙にむせたからであった。彼は周章《あわ》てて戸口の方へ急いだ。足を廊下へ一歩踏みだしたと思ったら、彼は声をかけられた。彼は咳きこんでいて、よく目が見えなかったのだ
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