に静かになった。係官たちは帆村にそういわれて何事かを思い出そうと努めたが為である。だが、いつまでたっても、誰も発言しない。
「もうお忘れになりましたか。鼠の屍骸のことです。あそこの洗面器の下に死んでいた鼠のことです」
 ああ、と声を発する者もあった。帆村は言葉を続けた。
「あの鼠の死因は、古堀博士の鑑定の結果、中毒による心臓麻痺だと報告せられているのです。おもしろいではありませんか、鼠も旗田氏も同じ原因によって同時に生命を絶っているのですからね」
「それはたしかに興味がある話だ」と検事がいった。
「で、君の結論はどうなんだ」
「結論は今のところそれだけですよ。いや、それをちょっと言い換えましょうか。旗田鶴彌氏もあの鼠も、共に瓦斯体によって中毒したんだといえるのです。――だから、まずこの婦人はこの部屋にいる間にそれを行ったのではないということが分る。なぜならば、そんなことをすればこの婦人も共に瓦斯中毒によってその場に心臓麻痺をおこさねばならないわけになりますからねえ」

   嘯《うそぶ》く亀之介

 瓦斯《ガス》中毒による心臓麻痺鋭だ。本当かしらん?
「面白い考えだが、それを証拠立てる
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