ロスだけになってしまった。
「検事さん。これで全部ですね」
 食料食器の収集を手伝っていた大寺警部がそういった。
「そう。それで全部だ」
 と、検事は小卓子の上へ目をやってから、肯いてみせた。が、その検事は、帆村荘六がいやにしかつめらしい顔をしているのに気がついた。検事の眉の間が曇った。
「おい帆村君、何を考えているんだい」
 いわれて帆村は、小卓子の上を指し、
「これだけは残して行くんですか」
「うん。無関係のものまで持って行くことはない」
「無関係のもの? そうですかねえ」
「だって中毒事件には関係がないものではないか。そうだろう。花活然り、蝋燭のない燭台然り、そして灰皿然り」
「そうでしょうかねえ」
「そうでしょうかねえったって、あとのものは中毒に関係しようがないじゃないか。僕が必要以上のものを集めたといって、君から軽蔑されるかと思ったくらいなんだがね」
「とんでもないことです。長谷戸さん。私は大いに敬意を表しているんですよ。あなたがマッチまで持って行かれる着眼の鋭さには絶讚をおしみませんね」
「ふふふ。それは多分君に褒められるだろうと予期していたよ。そうするに至った動機は、君の
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