頑張ぶりを解く一つの手段として、あの女の住居を家宅捜索してみたらいいと思う。佐々君、君ちょっと行ってみてくれんか」
部長刑事の佐々は、令状を貰って、すぐ出発した。お末の住居は、新宿の旭町のアパートであった。
小休憩
調べ室は、そこで暫くの休憩をとることとなり、お茶がいいつけられた。一同は隅っこに椅子を円陣において、煙草をふかしたり、ポケットから南京豆をつまみ出してぽりぽりやる者もあった。お茶が配られると、一同は生色を取戻した。なにしろ厄介な事件である。一体どこへ流れて行くのか分らない。帆村もお茶をすすりながら、メモのページを指先でくりひろげて見ている。大寺警部が長谷戸検事に話しかける。
「長谷戸さん。一体どこで犯行を確認するんですかね。つまり、ここの主人は病死か、他殺か。他殺ならば、どうして殺されたか。それをどこで証明したらいいのですかね」
三津子を犯人と見て、自信満々だった大寺警部も、このところすっかり自信を失ったらしい。とはいえ、帆村が今やっている脱線的捜査方針には同意の仕様がないと思っているらしい。
「もうすこし捜査を進めてみないと何にもいえないと思うよ。しかし今やっていることは決して無駄じゃないと思っている。なにしろ今まで手懸りと見えたものが、みんな崩壊しちまったんだ。この上は、すこしでも腑に落ちない点を掘り下げていくより方法はないと思うね」
検事は、間接に帆村が今とっている捜査方針を是認した。
「そうでしょうかねえ。だが、あの空き缶が犯行に一体どんな役目を持つと考えられますか。土居三津子の証言によると、あの缶詰はあけない先から、からっぽ同様に軽かったそうですね。しからば、あの中に入っていた内容物が、鶴彌の胃袋に入って中毒を起したとは考えられない」
「胃袋に入ったとは考えられない。しかし肺臓に入ったとは考えられなくもない」
「肺臓というと……肺臓になにが入るのですか」
「瓦斯体がね。つまり毒瓦斯だ。この缶詰の中に毒瓦斯がつめてあったとすれば、そんなことになるはずじゃないか」
「毒瓦斯がこの缶詰の中につめてあったというんですか。それは奇抜すぎる。少々あそこの先生かぶれですな」
大寺警部は、向こうでメモのページをめくっている帆村の方へ、ちらりと目を走らせた。
「そうなんだ、帆村名探偵かぶれなんだ」
検事はにやにや笑った。そのとき帆村が、ぴょ
前へ
次へ
全79ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング