時間ほど前に、極秘のうちに、動員令に署名を終ったそうです」
「そうか。とうとう、開戦か」
「そうです。またまた世界戦争にまで発展することは、火をみるより明らかです。ああ、今度はじまれば、実に第三次の世界大戦ですからね」
 と、久慈のこえは、興奮のあまり、慄《ふる》えを帯びている。
「一体、汎米連邦には、一切の戦備ができ上っているのかね」
 と、私はたずねた。
「もちろんですとも。この二十幾年、汎米連邦は、ばかばかしいほど大仕掛けの戦備をととのえているのです。
 近来《きんらい》汎米人以外のいかなる外国人も、入国を許可しませんから従って、どんなに大仕掛けの戦備ができているか、あまり外へは、洩《も》れないのです。しかし、こうして、国内に居る者には、たえず目にふれています。全くばかばかしいの一語につきますよ。
 旧北米合衆国のワシントン州のごときは州全体が、一つの要塞のように見えるのです。欧弗同盟《おうふつどうめい》国にとっては、相当手強い敵ですよ」
 大西洋をはさんで、東に欧弗同盟国、西に汎米連邦――この二つの国家群は、二十余年以来睨み合いをつづけているのであった。
「そうか。今度は、いよ
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