な何物も持っていなかった。
私が、呆然《ぼうぜん》として、顛覆した自動車に、腰をかけていると、後方から、数台の快速自動車が追いかけて来た。
私は、また敵が現われたかと、顔をしかめて痛む腰をあげ、オルガ姫を楯として、身構えた。
(第五列だ)
と思う間もなく、車は停った。
車上からは、十数名の軍人がばらばらと下りてきた。
「おお、黒馬博士。お身体に、お怪我はありませんでしたか。私は鬼塚元帥の副官であります」
そういって、りっぱな将校が、私の前へ、元帥の書面を出した。
“コノ者ニ伴ワレ、スグ来レ。鬼塚”
私は将校を見上げた。
「貴官は、本物でしょうな」
「田島大佐です」
「しかし、第五列が猖獗《しょうけつ》をきわめているようじゃありませんか。現に私は今……」
「申し訳ありません。私たちも、途中で、第五列部隊のため、妨害をうけたのです。もちろんそれは、プラットホーム付近で、博士を誘拐《ゆうかい》する目的だったのでしょう。とにかく、近頃めずらしい事件です」
「事件のあとで、めずらしい事件だと感心していては困るですね」
「全く、御説のとおり。警備部隊の引責はのがれませんが、またその一方
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