には、数年前から一人のアラビア人もいない”
 この放送は、明らかに、ワシントン特電がデマ放送であることを指摘し、反駁《はんばく》しているものであった。その外《ほか》のことについては、ベルリン特電は、なにもいっていないし、欧弗同盟のいずこの地点よりも、一つの放送さえなかった。それは、非常にりっぱに統制が保たれているというか、或いは開戦にあたって、作戦の機密を洩《もら》させまいと努力しているのだというか、とにかく林の如く静かであることが、汎米連邦側にはすこぶる気味のわるいものであった。
 汎米連邦と欧弗同盟国との戦闘は、あと数日を出でないで、開始されるであろうと思われた。
「落下傘が六個、下りてきます! 頭上、千五百メートル付近を、下降中!」
 とつぜん、オルガ姫の声であった。
 私は、空を仰いだ。
 ああ、見える見える。灰色の爆弾のようなものが、ぐんぐん下におちてくる。もっとスピードが速ければ、爆弾と間違えたかもしれない。
 落下傘は、主傘《しゅさん》を開いていない。小さい副傘を、ぽつんぽつんと、開きながら、まだ相当のスピードで落ちてくるのが分った。
 主傘がぱっと、開いたのは、高度二百
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