元のとおりに海面に浮かび上っていた。
 潮を含んだそよ風が、通風筒をとおり私の頸筋《くびすじ》を掠《かす》めていく。
 かん、かん。かん、かん。
 軍艦と同じように、時鐘が、冴々《さえざえ》と響きわたる。
(もう五時だ!)
 オルガ姫が、つかつかと近づいて、手提鞄を卓子《テーブル》のうえに置いた。
「これが昨夜中に蒐《あつ》まった録音です」
 人造人間との会話は、何を聞いても、こっちからは返事をする必要のないことであった。返事をしなくても人造人間は、私を高慢ちきな奴だと腹も立てず、また返事をしてやっても、悦《よろこ》ぶわけではない。私はただ必要なる命令だけを喋ればよかった。
 私は、録音器の入った鞄をもって、階段をのぼっていった。
 島の上に出ると、朝やけの空のもと、静かな海にはうねりもなかった。
 昨夜、この辺に、執拗《しつよう》な索敵《さくてき》行動をくりかえした汎米連邦の艦隊は、影も見えなかった。空と海と、そしてクロクロ島だ。原始時代の昔にかえったような、まことに単純な世界の中の一刻であった。戦争もない、資源問題もない。只有るのは、今もいったように、空と海と、そしてクロクロ島だけ
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