然はかくも美しいのであった。
 光ばかりではない。音さえない。
 浪の音さえ、聞えないのである。この島では、打ちよせる浪の音は、たくみに、補助動力《ほじょどうりょく》に使われ、そして音を消してあった。だから、時折、頬のあたりをかすめる微風《そよかぜ》が、蜜蜂の囁《ささや》くような音をたてるばかりだった。――この島では、光と音と、そして電磁波《でんじは》とが、すこぶる鋭敏《えいびん》に検出されるようになっていた。――
 かく物語る私とは、何者であろうか?
 名乗るべきほどの人物でもないが、もう暫く、読者の想像に委《まか》せておこう。


   哨戒艦隊《しょうかいかんたい》――テレビジョンに映った影


 時間は流れた。
 クロクロ島の夜は、いたく更《ふ》け過ぎて、夜光時計は、今や二十一時を指している。
 待っている第三回目の怪放送は、まだアンテナに引懸らないらしい。オルガ姫は、ずっと下に入りきりで報告に上ってこないのであった。
 いつもなら、もう疾《とっ》くの昔にベッドに入る頃だが、今宵《こよい》は、なかなか睡られそうもない。
 久慈から聞いた遂《つい》に汎米連邦に動員令が出たとの飛報
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