えを出して口から出まかせに、わけのわからぬことを喚《わめ》きたてた。
絶望だ! 絶望だ!
そんなことを、どのくらい続けていたか、私はよく憶《おぼ》えていない。
その間にも、私の操縦する潜水艇は、どこをどう、うろついたのかも全く知らない。
気のついたときには、私は、あやめもわかぬ暗闇の中にいた。
「おや」
と思った私は、耳を澄ました。
だが、何の物音も聞えなかった。――光も音もない世界へ、私は放りこまれていたのである。
しかしこのとき、もう私は、かなりの落着きをとりかえしていた。
「オルガ姫!」
私は、暗闇に向って、助手の名を呼んだ。
返事がない。
「オルガ姫!」
私は、更に声を大きくして叫んだ。
だが、その応答はなかったのである。
(こいつは、いかん。何ということだ!)
事態は重大化した。一大変事が起ったのである。どこにいても、すぐ返事をして飛んでくるはずのオルガ姫が、私の傍から離れ去ったのだ。
クロクロ島は、影を消すし、横に寝ているはずのオルガ姫まで、どこかへ行ってしまった。なにがなんだか、さっぱりわけがわからない。
私は、ふと気がついて、両手を伸ばして、あたりをさぐった。
「なんにもない。ハンドルもないのだ」
一大事だ。私はいつの間にか、極秘《ごくひ》の潜水艇の外に出ていたのである。
私は、そっと両手をついて、頭をあげた。
「おッ、起きあがれるぞ!」
私は起き上った。だが、そこにも、次の大きなおどろきが待っていた。私の足の下に、踏んでいるはずの大地が感ぜられないのであった。
(足の裏が、無感覚になったのであろう)
そう思いながら跼《かが》んで、足の下をさぐった。このときぐらい、私が愕《おどろ》いたことはない。足の下には、なんにもない。床もなければ、大地もない。それは全く、空っぽの空間だけがあったのである。
名状しがたい大戦慄が、私の背中を、匐《は》いのぼった。怪また怪!
空間の大戦慄《だいせんりつ》――おそるべきX大使の魔力
さすがの私も、この恐怖の一瞬に、全身からありとあらゆる精力が、一度に抜け去ったように思った。
が、最後の一歩手前で私は、もしやと考えた。
「これは、夢を見ているのではないか」
私は、そういうときに誰もがするように、われとわが頬を、指さきで、つよくひねった。
「あ、痛い!」
頬は痛かった。――しからば、これは、夢ではないのだ。
夢であった方が、まだましであった。これが夢でないとしたら私は、この不思議な現象を、何と理解したらいいであろうか。全くもって、物理学では説明のつかないことになった。
「ああ、恐ろしい」
私は、もう恐怖を、隠しきれなかった。そして体を丸くして、両腕に自分の膝小僧を抱えた。
「――夢でなければ、私は、気が変になったのかしらん」
私は順序として、今度はそう思わないではいられなかった。
(気が変になったのであれば――気が変になったということを、どんな方法で確認したらいいのであろうか?)
解らない、解らない!
気が変になった者が、自分で自分の変になったことを検定する方法はない。地獄だ、無間地獄の中へ落ちこんだようなものだ。
私は、暗闇の中に竦《すく》んでしまって、化石のようになっていた。真の絶望だ!
私は、もう、すべてのことを忘れていた。鬼塚元帥からの密令のことも、欧弗同盟国と汎米連邦の開戦説のことも、また、その両国が連合して、大東亜共栄圏を脅かそうという風説のことも……。いや、そればかりではない。私は、今の今まで心配していたクロクロ島のことさえ忘れそれから、オルガ姫のことや、私の乗っていた筈の快速潜水艇のことさえ、一時忘れてしまった。
ただ、私の頭脳《あたま》の中に一杯に拡がっていることは、この不思議な空間のことであった。どこからも解く糸口のない謎!
もしそのまま、私が後一時間も、そのままで放って置かれたら、恐らく私は、本当に発狂してしまったのかもしれない。
だが、私は、一つの大きなことを見落していたのである。この不可思議な現象を解く鍵が、まだ一つ、残っていたことを!……真の絶望ではなかったのである。
その鍵とは?
それは外でもない、「時間」という鍵であったのだ。
時間だった。その鍵は!
時間のみが、その不可思議の扉を開く力を持っていた。――つまり、時間の動きが、ともかくも、私を絶望の世界から救ってくれたのである。
時間の動きだ。時間が、どんどん経っていった。時間の速さが、どの位であったか、それは知らない。とにかく、何時間か何十時間かが経過した後、私は不意に、一道の光明の中に放りだされたのである。――それは、音響として私の耳を撃った。百雷《ひゃくらい》が一時に崩《くず》れ落ちたかのように、その音響は、
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