すると、どっちからともなく寄って一緒になってしまう。そしてまた暫くすると、離れる。そのとき、一番艦が、左から右へ移り替る。――艦隊は、ジクザク行進をつづけているのだ。
 私は、この様子を、じっと眺めていたが、艦隊が、わがクロクロ島の方位を、完全におさえていることを知った。一体、どこで、うまく見当をつけられてしまったのであろうか。
「こいつは、油断《ゆだん》がならないぞ!」
 私は、万一の用意をした。
 そのうちに、艦影は、映写幕一杯になった。4と記した赤灯《せきとう》が、ふっと消えて、その隣りの3と書いた赤灯が点いた。映写幕上の艦影は、とたんに小さくなった。
 が、こんどは、艦影は、どんどん大きくなっていった。赤灯は2が点き、遂に1が点いた。そのころ吸音器から、ぼそぼそと、人の話ごえが聞えてきた。
「一番艦の艦橋《かんきょう》のこえを採《と》れ!」
 私は、号令をかけた。
 オルガ姫は、どこの国の機関部員にも負けない敏捷《びんしょう》さでもって、しきりに目盛《めもり》を合わせた。――吸音器からのこえが、急に大きく、明瞭《めいりょう》になってきた。
「司令、たしかにこの方位にちがいないのですがなあ」
 と、アメリカ訛《なま》りのある英語が!


   クロクロ島の秘密――驚くべし十万トンの怪物


 さすがの私も、その話ごえを耳にしたときには、背筋《せすじ》がすーっと、寒くなった。
(ふん、やっぱり、そうだったか。汎米連邦《はんべいれんぽう》の軍艦だな)
 艦の位置は、今や、ほぼクロクロ島の真上《まうえ》にあるのだ!
「先任参謀《せんにんさんぼう》、測量班へもう一度、注意をうながせ」
「はい」
 司令が、命令を出したようだ。
「――測量班、深度測定《しんどそくてい》をやっとるか」
「はい、やっております」
 と、崩《くず》れたこえだ。艦底に陣取っている測量班が応《こた》えた電話のこえであろう。高声器が、潮風に湿《しめ》っているようだ。
「やっているか。まだ深度異常は認められないのか」
「はい、一向変化がありません。この辺の海底は、三十メートル内外で、殆んど平らであります」
 哨戒艦は、しきりに、水深を測っているらしい。
「島影も見えず、沈下した様子もないとは、変だなあ。――どうだ、水中聴音器で、立体的にも測ってみたか」
「もちろんですとも。しかしお断りするまでもなく、水平方向は一万メートル以上は、指度《しど》があやしいのです」
「そうか。じゃ、引続き測量を行え。――司令、お聞きのとおりです。一向《いっこう》予期した海底異状がないそうであります」
 と、先任参謀が、情けなさそうなこえを出した。
 私は、深度計を見た。
 深度計の指針は、ずっと右に傾いて、深度三十一メートル!
「ふふふ、この辺の海底は、三十メートル内外で、殆んど平らであります――か。なるほど、そのような報告では、お気の毒ながら、宝探しは無駄骨《むだぼね》だろうよ。ははは」
 私は、腹の底から、笑いがこみ上げてきた。オルガ姫は笑いもせず、あいかわらず、黙々として、配電盤の前に立っていた。
 吸音器からは、また話ごえが洩れていた。
「司令、予定された地点は、もう後になってしまいました。そうです、只今、一キロばかり、行き過ぎました」
「そうか。やっぱり駄目か」
 と、今度は、司令が、元気のないこえを出した。
「僚艦《りょうかん》からも、かくべつ、ちがった報告はないんだね」
「そうであります。本艦と全く同様の結果を得ております」
「方向探知局の測定に誤差《ごさ》があったのかな。今まで、そんなへま[#「へま」に傍点]をやったことはないのだがねえ」
「測定の誤差というよりも、測定方法がいけないのじゃないか」
「そんな筈はないのですが……たしかに、こっちの専門家が、苦心して三つの中継局を探しだし、確信のうえに立っているといわれたものですが……」
「とにかく、もう一度、連合艦隊|旗艦《きかん》へ連絡をとってみることにしよう。旗艦を呼び出したまえ」
「は」
 それから、小一時間も、哨戒艦隊は、なおも、そのあたりをうろうろしていたようである。だが、私は、彼等の会話を、盗聴《とうちょう》して、これなれば、こっちは安全であるとの自信を高め得た。
 なぜなれば、その付近の海底を、いくら探してみても、海底から、とび出したものなどは、発見されないのであった。もちろん、海面を見わたしたところで、クロクロ島の姿が見えるわけのものでもなかった。わがクロクロ島は、完全に、彼等の感覚の外にあったのである。
 ――というと、まるで魔法使いの杖の下に、かき消すように消えてしまった兎《うさぎ》のように思われるであろうが、そのような、いかさま現象ではない。わがクロクロ島は、ちゃんと現存しているのであった。私が、こ
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