しては、かの磁石砲の一般的使用法のみを伝授し置きたるが、実は、かの磁石砲は、或る特別の使用法によって、更に愕くべき偉力を発揮するものなり。博士よ、クロクロ島に赴《おもむ》きて、磁石砲の操縦器を改めて調べられよ。中央に見ゆる三基のスイッチを、三基とも、停止の位置より逆に百八十度廻転せられよ。かくすることにより、磁石砲は、四次元振動|反撥砲《はんぱつほう》に変ぜらるべし。よって、その偉力《いりょく》を試みられよ。今日まで、かかる特殊の使用法あるを伝授せざりしは、わが日本要塞が未完成状態にありしを以て、それを伝授することは、機密漏洩《きみつろうえい》の虞《おそれ》あり、金星超人に乗ぜらるる心配ありしをもって、その伝授《でんじゅ》を只今まで、控えしものなり。さらば黒馬博士、クロクロ島へ帰れ。而《しこう》して、余よりの新しき命令を待て。余鬼塚元帥は重ねて博士に対し、深甚なる敬意を表す。――これで、元帥からの電文は、おしまいですわ」
と、オルガ姫は、終りを告げた。
「おお、そうか。なるほど、なるほど。では、オルガ姫、太平洋の海底に沈んだクロクロ島を探し求めて、そこへ帰ることにしよう。出発!」
私は元気よく、そう命令した。
大団円《だいだんえん》――X大使の敗北
クロクロ島の沈没個所は、大体分っていたので、私たちは、大してまごつきもせず、沈没島のそばへ近づくことが出来た。
私は、艇にのったまま、クロクロ島の周《まわ》りを、いくども、ぐるぐると廻って、損傷個所《そんしょうかしょ》をしらべた。
クロクロ島は、大きな岩礁《がんしょう》に、その底の一端をもたせかけ、島全体が、斜めになって、沈没していた。
いろいろ観察したが、結局、米連艦隊のために、浮沈用の水槽を破壊されていることが分った。
私は、それを見定めると、三角暗礁へ急行した。
三角暗礁には、こんなときの用意にもと、鋼板《こうはん》もあれば修理機械や喞筒《ポンプ》をもった工作潜水艇も、ちゃんと収めてある。
私は、オルガ姫の力を借りて、その工作潜水艇に、いろいろの材料を積みこみ、再びクロクロ島へ引返した。
私は、司令塔の総配電盤の前にすわりこんだ。オルガ姫は、艇を出て、水中に下りた。彼女は機械でできた人間だから、別に潜水服を着なくてよろしい。
工作潜水艦から、持って来た鋼鈑を取り下ろした。オルガ姫は、それをクロクロ島の水槽の破損個所へ引いていった。
工作潜水艇の横腹からは、長い二本の熔接具《ようせつぐ》が伸びていった。オルガ姫は、それを手につかんで、器用に熔接をしていった。
熔接が終ると、次は、水槽内の水を、艇内の喞筒《ポンプ》でもって、吸い出しにかかった。これは、大して面倒なことではなかった。
煌々《こうこう》たる水中灯の光を浴びて、クロクロ島の巨体は、やがてしずかに浮き上りはじめた。
すっかり浮き上ったのは、作業を始めてから、わずか十時間のちのことであった。洋上は、二十三時で、真暗《まっくら》であった。洋上は浪《なみ》しずかで、空には、星がきらきらと瞬《またた》いていた。
私は、オルガ姫を伴って、水上に浮かびあがった工作潜水艇から、クロクロ島へと、乗りうつった。
まずクロクロ島の内部へ、いろいろな方法で信号をしてみた。だが、私の予期したように、何等《なんら》の応答もなかった。
そこで、やむなく、私は、入口の鉄扉《てっぴ》を明けにかかった。いろいろの道具をもってきて、試みてみたが、扉はぴたりと閉ったままで、なかなか開きそうになかった。
そこで私は、オルガ姫を、再び水中にもぐらせて、クロクロ島の底に、外に向って開いている排出孔《はいしゅつこう》から、逆に入りこませることにした。もちろん、そこにも三重の鉄扉があるが、開けることは、それほどむずかしくないのであった。
私が、クロクロ島の背中で待っていると、それから十分ほどして、足許《あしもと》で、ぎいぎいと音がしはじめた。
「おお、オルガ姫が、入口の扉を開けているな」
そう思っているうちに、果して鉄扉が開いた。内には、明るい電灯の光が見える。
「ほう、とうとう、クロクロ島へ戻ってこられたわけだ。どれ、中はどんなことになっているか」
私は、久慈《くじ》たちのことを思い出した。久慈たちにクロクロ島をあずけておいたが、その後、彼からの通信は来ず、そのうえ、クロクロ島は、洋上を漂流しているなどと、非常に憂慮《ゆうりょ》すべき事態の下にあったのである。私は、島内において、どんな光景が見られるかと胸を躍らせながら、階段を下っていった。
「おお!」
私は、階段の途中で、思わず呻《うめ》いて、そこに立ち竦《すく》んだ。
見よ。島内には、久慈たちの姿はなく、その代りに、X大使が、厳然《げんぜん》と立って、
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