び活溌にうごきだした。姫は、巧みに舵器をあやつって、上陸地点を探しはじめた。エンジンの音が、高くなったり低くなったりするのは、しきりに上陸地点を探しているのであった。
オルガ姫からは、なかなか報告が来なかった。私は、姫が故障になったのではないかと思い、
「おい、オルガ姫、お前は異常がないのか」
と、訊ねた。
「異常なしです」
「じゃあ、どうしたのか。あれから随分になるのに、まだ上陸地点が見つからないのか」
私は、自分でも、いらいらしているのが、よくわかった。
「はい。上陸地点が、どこにも見つからないのです。北は樺太《からふと》までいきましたし、南は海南島から小笠原あたりまでいってみました。しかし、どこにも上陸地点は見当りませんのよ」
「それは、おかしいな。じゃあ、日本内地というものが、全然浪の上に出ていないということになるじゃないか」
私は、そんなことがあってたまるものか、と思った。
すると姫の答えは、
「いえ、そうなのです。日本のあったところは、すっかり何もなくなっています。有るのはただ洋々たる大海だけなんですわ」
「え、本当かい」
私は、胆《きも》をつぶした。日本内地の陸地が完全になくなってしまったというのだ。日本内地は、どうしたのであろう。空中へ吹きとんでしまったのか、それとも、海面下に陥没《かんぼつ》してしまったか。
「ああ、陥没! うむ、ひょっとしたら、そんなことがあったかもしれない」
私は、気がついて、直ぐさま、水中望遠鏡を目にあてた。
丁度《ちょうど》夜であったので、視界は遠くない。赤外線をこっちから出して、目的物に当ててみるが、充分でない。しかし艇を、あっちへやったり、こっちへやったりしているうちに、ついに海面下に大きな要塞みたいなものが沈んでいるのを発見した。
それは、たしかにベトンらしいもので出来ていた。天然の岩礁《がんしょう》でない証拠には、色も黄色であったし、そして簡単な幾何学的の曲面をもっていて、人工であることが、すぐわかった。
「おい、オルガ姫。艇の前に今見えている黄色い竜宮城《りゅうぐうじょう》みたいなものがあるが、あの地点はどこかね。つまり、日本の地図から探すと、あそこは、どのへんに当るかね」
「はい、あれは室戸崎《むろとざき》付近です」
「なに、室戸崎だって。すると、四国だな」
私は、そこに起点を定めた。
「じゃあ、艇を、ここから東北東|微東《びとう》へ向けて走らせよ。いや、要するに、紀州の南端《なんたん》潮岬《しおのみさき》へ向けて見よ」
「はい。潮岬へ来ました」
「おお、もう来たか」
私は、室戸崎から潮岬までが、ベトンで、ずっと続いているのを発見して愕《おどろ》いた。
「オルガ姫、こんどは、東京へ向けてみよ。途中、富士山にぶつかるだろうから、その地点を忘れないで教えて、ちょっと停めよ」
「はい」
潜水艇の針路は、すこし北へ修正された。
不思議なベトン塔――とにかく東京までゆけ
「ここが富士山の位置です」
オルガ姫から注意されて、私は、また更に愕いた。
「富士山は、ここかね。山なんぞ、ありはしないが……」
どう見まわしても、富士山らしいものはなかった。このとき艇は、海面下わずかに一メートルのところを走していたのを、ぴたりと停めたわけであるが、このとき見えるのは、艇の下、約七、八メートルのところに、なんといったらいいか、恰《あたか》も並べられた大きなパンの背中を見るような感じのするベトンだけであったのだ。やや凸凹はあるものの、山らしい形のものは、さっぱり見当らない。
「ふしぎだ、ふしぎだ」
私は首をふった。
「オルガ姫とにかく東京までいってみろ」
「はい」
東京へいっても、おそらく同じことであろうと思ったが、東京へついてみると、やっぱりそうであった。見えるのは、すべすべしたベトンの背中ばかりであった。
「ふうむ、やっぱり同じことだ。オルガ姫、艇をこのまま沈ませて、しずかに、あのベトンのうえにつけよ」
「はい」
艇の底は、まもなく、ベトンの上に触《ふ》れた。微《かす》かな反動があった。
「しばらく、ここで休むことにしよう」
私は、ここでしばらく憩い、最前《さいぜん》から解き切れない謎を、どうにかして、ここで解いてしまうつもりであった。
さあ、一体、祖国日本は、どうしたというのであろう。
私の観察したところによると、感じからいうと、日本の陸地が、化石《かせき》になって(陸地が化石になるというのはおかしい云い方だが)、そして海底にしずんでしまったとでも云い現わしたいところだ。
その一方において、富士山がなくなり、その代りでもあるように、紀伊《きい》水道が浅くなってしまって、ベトンの壁が突立っているのであった。一体、どういうわけであろう。
わか
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