し、X大使は、無遠慮にからからと笑い、
「あははは、可哀いそうな者よ。なんとでも、好きなように自惚れているがいい。そのうちに君たちの大東亜共栄圏は、白人たちの土足の下に踏みにじられるだろう」
「やあ、そういう君は、白人種結社から派遣されたスパイだろう」
「違う」
 と、X大使は、言下につよく否定したが、しばらくその後を黙っていて、やがてなんだかわざとらしい調子の言葉になって、
「……まあ、なんとでも想像するがいい。しかしとにかく、わしは君に警告しておく。もう、あのようなくだらん磁力砲《じりょくほう》などを仕掛けるのはよせ」
「余計な御忠告だ。そういう君は、磁力砲の偉力に、すっかり参ったというわけだろうが……」
 私は、大使が、悲鳴をあげているのだと確信した。
 するとX大使はまた、ふふんと鼻で嗤《わら》い出して、
「おい、黒馬博士。君は学者のくせに、いつまで、迷夢《めいむ》から覚めないのか。君は、この暗黒世界のことを、何だと考えているのか」
 X大使の言葉は、私の腕に、針を突込んだように痛かった。私は、かなり強がりをいっているものの、踏みしめるべき大地のないこの暗黒世界に、ひとり封じこめられている気味のわるさに、これ以上|怺《こら》えかねていたところである。
 しかし私は、こんなところで、敵に弱味を見せてはと思い、
「あははは。X大使よ、それよりも、磁力砲の偉力を思い出したがいいぞ。君の身体は、磁力砲のために大怪我をしたではないか。だから君は、今私の前に姿を見せることができないのだろう。そして、声ばかりで、私を嚇《おど》している。そんな嚇しに、誰がのるものか」
 と、いってやった。
「おかしなことをいう」
 X大使はちょっと腹を立てたような声になって、
「わしが、磁力砲のため、大怪我をしたと思っているのか。それがため、わしが姿を見せないと思っているのか。ふふん、とんでもない独《ひと》り合点《がてん》だ。わしは、ちゃんとしているのだ。今、姿を見せてやろう」
 そういったかと思うと、とつぜん、空気を破って、奇妙な高い調子の震動音が聞えてきた。そのうちに、暗黒の中に、朦朧《もうろう》と、白く光った人の形があらわれて来た。
(おやッ、出たな。まるで、大魔術を見ているようだ)
 人の形は、どんどん明瞭度《めいりょうど》を加えていった。そして、ものの三十秒も経たないうちに、その
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