大事です。クロクロ島が、原位置《げんいち》におりません!」
「ええッ!」私は、わが耳を疑った。それが本当なら、一大変事《いちだいへんじ》勃発《ぼっぱつ》である!
絶望のクロクロ島――名状しがたい大戦慄《だいせんりつ》
どこへ行ってしまったか、クロクロ島!
「あのとおり堅牢《けんろう》なクロクロ島だ。また、あのとおりすばらしい戦闘力をもったクロクロ島だ。そのクロクロ島が、まるで、煙のように消え去るとは、合点がいかない」
私の心は、じりじりしてきた。
(よし、このうえはオルガ姫にたよらず、自分の手で捜してみよう)
私は、スイッチを切りかえると、自ら操縦のハンドルを握った。
それから私は、透過《とうか》望遠鏡に目をあてた。この透過望遠鏡というのは、一種の電子望遠鏡で水中はもちろん水上であれ空中であれ、すっかり透過されて見え、その視界距離も零距離から五百キロメートルの遠方まで、どこでも手にとるように見えるというすばらしい光学器械である。私は、この透過望遠鏡を目に当てたまま、そこら中をぐるぐる廻った。
二時間あまりというものを、私は夢中になって、探しまわったのであった。或るときは、海底の軟泥の中をかきわけ、また或るときは、山のような巌床のうえへ匐《は》いあがり、そうかと思うと、急に水面に浮かびあがり、いろいろと力のかぎりをつくして展望したのであった。――だがついに私の得たものは、はげしい疲労と、真暗な絶望とだけであった。
クロクロ島は、どこへいったか、影も形もないのである。
「ああ、――」
私は、ハンドルを握って仰臥《ぎょうが》したまま、長大息した。
どうしたのであろう、わがクロクロ島よ。このときぐらい私は血の通った生きた人間を恋しく思ったことはない。傍にいるオルガ姫は、なにごとであれ私の命令を忠実にまもる部下ではあったが、惜しいことに、彼女は人造人間だから、話しかけて、相談するわけにはいかなかった。
「ああ、話相手がほしい。すこしぐらい変でもいい、生きている人間の話相手がいてくれたら……」
私は、なんだか、めまいを覚えた。不安の影が、黒い翼《はね》をぐんぐんひろげて、私の体を包んでしまおうとする。このまま私は、深海に死んでいくのではないかと、心ぼそさが、こみあげてきた。私は思わずも、ハンドルを握りしめた。そして、誰も聞いていないのに、大きなこ
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