した。攻撃機が一つ一つ、濤《なみ》に呑まれてしまったのであった。
「おお、敵機全滅! ばんざーい!」
 久慈たちは双手《もろて》をあげて、凱歌《がいか》をあげた。
 しかし、私は、別に嬉しくも感じなかった。こんなことは、クロクロ島の偉力の一つとして、なんでもないことだ。だが、汎米連邦の軍用機を撃墜したことによってやがて困難な事態が必ず向うからやってくるであろう。それを考えると、私は、迚《とて》もばんざいを唱える気にはなれなかったのだ。


   別れの盃《さかずき》――本国からの呼び出し


 クロクロ島にあがる凱歌!
 米連の追撃隊は、わが怪力線砲のため、悉《ことごと》くやっつけられてしまった。
「祝盃だ、祝盃だ!」
「なんという、すばらしい戦闘だったろうか。ああ、思いだしても、胸がすく!」
 久慈たちは、クロクロ島に備付けの怪力線砲の偉力を、今更《いまさら》のように知って乱舞《らんぶ》のかたちである。
「よかろう。おい、オルガ姫、灘《なだ》の生《き》一本を、倉庫から出してこい」
「はい、はい」
 私は、なおも、島の付近の海と空との一面に、油断なき監視の触手を張りおわってのち、ようやく安心して、皆のところへ戻ってきた。
 せまい機械台のうえが、とり片付けられ、一枚の白い布が敷かれていた。そこへ、オルガ姫が、酒の壜《びん》をもってきた。
「ああ、灘の生一本か。こんなところで、灘の酒がのめるなんて、夢のようだな」
 皆は、子供のようにうれしそうな顔をして、小さい盃にくみわけられた灘の酒をおしいただいた。
「ばんざーい、クロクロ島!」
 私はいった。
「ばんざい、黒馬博士のために……」
 と、久慈が、音頭をとった。
「ありがとう」
 と私はいって、
「――だが、この盃をもって、皆さんに対し、お別れの盃を兼ねさせていただきたい」
「なんだって」
 久慈が、おどろいて、私の顔をみた。
 私はここで、皆に、説明をしなければならなかった。
「実は、さっき、本国から、至急戻ってくるようにと、命令があったのだ。だから私は、お別れして、いそぎ東京へ戻らなければならない」
「ほんとうかね。われわれをからかっているのではないかね。クロクロ島の主人公が、ここを離れるなんて」
「いや、クロクロ島は、依然としてここにおいておく。久慈君に、後を頼んでおく。もちろん本国から君あてに、辞令が無電で届
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