くことだろうが……」
「ほんとうかね。黒馬博士が、クロクロ島を離れるなんて、そいつはちょっと困ったなあ」
「困るって、なにが……」
「僕には、このクロクロ島が、つかいこなせないと思うのだ。なにしろ、このとおり、複雑な働きをする大潜水艦だからなあ」
「複雑だといっても、殆んどみんな機械が自動式にやってくれるのだから、君は、司令マイクに、命令をふきこむだけでも、かまわないんだよ」
「それはそうかも知れんが、このふかい意味のある西経三十三度、南緯三十一度付近においてクロクロ島本来の使命を達成するには、僕では、器《うつわ》が小さすぎる」
久慈は、いやに謙遜《けんそん》をする。
「ははあ、臆病風《おくびょうかぜ》に吹かれたね」
と、私がいえば、彼は、
「臆病風? とんでもない。そんな風なんかに吹かれてはいない。しかし、只これだけのりっぱな大潜水艦を、君から拍手をもらうほど、僕にうまく使いこなせるかとそこが心配なんだ。その一方僕は、このクロクロ島を、自分の思うように使ってみたくて、たまらないのだ。臆病風に吹かれているわけじゃない」
と、久慈は、ぴーんと胸をはっていった。
私は、うなずいた。久慈なら、たしかに、このクロクロ島をうまく使いこなせるだろう。
だが、そのとき私は、一つ心配なことを思い出した。
それは外でもない。昨夜あらわれた怪人X大使のことだった。あのような大胆不敵な曲者に、このクロクロ島を再訪問されては困ってしまう。なにかいい方法はないか。
私は、しばらく考えた結果、一つのことを思いついた。それは、クロクロ島の入口に、強烈な磁石砲《じしゃくほう》をおくことだ。あのX大使が、入って来ようとすると、この磁石砲の磁場《じば》が自動的に働いて、X大使の身体を、その場に竦《すく》ませる。そのとき一方から、ヘリウム原子弾を雨霰《あめあられ》のようにとばせて、X大使の身体の組織をばらばらにしてしまう。そうすれば、いかなる怪人X大使であろうと、たいてい参ってしまうであろう。
私は、磁石砲を入口に据付《すえつ》けるために、貴重な三十分ばかりの時間を費《ついや》し、それが終ると、久慈にくわしく注意をして、名残《なごり》惜しくもクロクロ島を出掛けたのであった。
魚雷潜水艇《ぎょらいせんすいてい》――身動き出来ぬ船室
私は、あいかわらず、忠実な部下である人造人
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