っている。
私は、彼女の体を抱き起して、壁に凭《もた》せかけた。それからこんどは、首を拾いあげた。その首を彼女の肩のうえに嵌《は》めてやった。
彼女は、死んだようになって、すこしも動かない。
私は、オルガ姫の胸をあけた。
「ほう、こいつだな」
真空管の一つが、消えていた。
私は、新しい真空管を棚から下ろして、故障の真空管のあとに挿しこんだ。そして姫の胸を元どおりに閉じてやった。
すると、姫は、いきなりぴょこんと立ち上ると、すぐさま、警鈴の鳴る配電盤の前へ走りよったのであった。――私の助手オルガ姫は、もう読者のお察しのとおり、これは本当の人間ではなくて、実は機械で組立てた人造人間であったのである。
人造人間は、助手として、はなはだ好適《こうてき》であった。
命令は、絶対にまちがいなくまもるし、食事をするわけではなく、人間らしいものぐさ[#「ものぐさ」に傍点]もなし、そして部分品をとりかえさえすれば、いくらでも使える。
殊にオルガ姫の端麗《たんれい》さは、ちょっと人間界にも見あたらぬほどだ。私は有名なるミラノの美術館を一週間見て廻って、ようやくオルガ姫の原型《げんけい》を拾い出したのであった。それを私の理想とする婦人像であったのだ。
オルガ姫を見ていると、私は母の懐《ふところ》に抱かれているような安心を覚える。
そのオルガ姫は、配電盤のところに立って、しきりに録音された鋼鉄のワイヤを調べていたが、私の方に向き直り、
「警報信号が、しきりに入っているのですけれど、発信者の名前もなく、それに、本文もないのですが」
オルガ姫は、報告だけをすると、また配電盤の方へ向いて忙しそうに手をうごかした。
「発信者の名前もなく、また本文もない……」
私は、それはきっと逃亡中の久慈が、自分の安泰を知らせているのだと解釈したのであった。
久慈は、このクロクロ島へ逃げこんでくるかも知れない。いや、どうもそういう気がする。
もし、ここへ逃げこんでくるとすると、彼の到着は、早くも明日の朝になるであろう。
私は、オルガ姫に命じて、なおもその警報信号に注意を払わせることとし、もしも、なにか本文らしいものを相手がうってきたら、すぐさま私に知らせろといいつけた。
そうして置いて私は、X大使の闖入《ちんにゅう》以来、あまりに疲れたので、しばし長椅子に横たわって睡眠をとること
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