りてきたと思うと、彼女はその足ですぐ配電盤のところへ、とんでいった。
複雑なスイッチが、つぎつぎに入れられた。赤や白や緑やの、色とりどりのパイロット・ランプが、点いたり消えたりした。防音壁をとおして、隣室の機械室に廻っている廻転機のスピード・アップ音が、かすかに聞える。
私たちの体は、なんの衝動《しょうどう》も感じなかったけれど、深度計《しんどけい》の指針は、ぐんぐん右へ廻りだした。
室内の空気の臭《にお》いが、すっかりちがってきた、薬品くさい。もちろん、それは濾過層《ろかそう》を一杯にうずめている薬品の臭いであった。
「三隻よりなる哨戒艦隊、東四十度、三万メートル!」
オルガ姫は、すきとおる声で、近づく艦艇を測量した結果を、報告した。
「どこの国の艦《ふね》だか分らないか」
「艦籍不明《かんせきふめい》!」
と、オルガ姫は、すぐに応えた。
「艦籍不明か。どうせ汎米連邦の艦隊だろうが、なんの用があって、こっちへ出動したのかな」
まさか、このクロクロ島が見つかったためではあるまい。
だが、先刻、久慈は、私に向って警告した。
(この調子では、そっちへも、監察隊が重爆撃機《じゅうばくげきき》に乗って急行するかもしれませんよ!)
という意味のことを云った。今、近づいてくるのは、哨戒艦であって、重爆撃機ではないから、話はちとちがう。といって、もちろん、安心はならない。
「二万メートル!」
と、オルガ姫が叫んだ。私は、哨戒艦との距離二万メートルの声を待っていたのだ。
「おお、そうか。では――テレビジョン、点《つ》け! 吸音器《きゅうおんき》開け!」
私は、命令した。
壁間《へきかん》に、ぽッと四角な窓があいた。窓ではない、テレビジョンの映写幕である。静かな海面、すこし弯曲《わんきょく》した水平線、そして、そのうえに、ぽつぽつと浮かぶ三つの黒点――それこそ、近づく三隻の哨戒艦であった。このテレビジョンは、赤外線を受けているので、映写された夜景は、まるで昼間の景色と同様に明るく見えるのだった。
その横では、吸音器が、はたらきだした。ざざざーッと、いそがしそうに鳴るのは、全速力の哨戒艦が、後へ曳《ひ》く波浪《はろう》のざわめきであろう。
映写幕のうえの艦影《かんえい》は、刻々に大きくなってくる。
その三点の黒影は、ぽつぽつぽつと並んでいたと思うと、しばらく
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