相手として或る程度の満足を得られる友人が一人だけあった。それは先にも名前をちょっと出したが、日本人記者で水戸宗一という三十歳ばかりの背の低い色の黒い男であった。
 例の事件を発見する日の前夜、ハリ・ドレゴは水戸を引張《ひっぱ》りまわして町中を飲み歩いた。この日二人の間には珍らしく議論が沸騰《ふっとう》したのである。それは「この世は神が支配し給うか。それとも悪魔が支配しているか」という問題だった。水戸は「もちろん神々によって支配されたる有難い世だ」と言ったのに対し、ハリ・ドレゴは「いや違う。この世は今や九百九十匹の悪魔と、僅か十人の神様とによって支配されているのだ。その生残りの神様も遠からず、この世から追放されてしまうであろう」と心細いことを主張して譲らなかった。水戸はドレゴの説をくつがえすために、色々と事実をあげて反駁《はんばく》した。がドレゴはいつになく水戸のいうことを聴かず、片端からあべこべの実例をもって水戸の甘い説を薙《な》ぎ倒《たお》していった。
 この論議は、ドレゴの家の玄関口まで続いた。水戸はこの友情に篤《あつ》いドレゴがその夜飲み過ぎたことと、日頃に似合わず虚無的な影に怯
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