ていては都合が悪いというんで、どんどん壊しにかかっているんだ。ああ、折角の名案も効なしか」

  変装の友

 ドレゴは落ちつかぬ心を抱いて、グロリア号から埠頭へ戻った。
 小蒸気船からあがるとき、彼はポケットに手を入れて金をつかみ出した。と、金に変って、彼の持ち物ではない小さいナイフが一挺入っていた。どうしたわけだろうと訝《いぶか》りながら、そのときは深く気にも留めず、船長に料金を払った。
 海岸通は明るく灯がついて、いつものように客で賑っていた。
 彼はすっかり精神的に疲労を感じていたので、早く一杯やりたかった。そこで、あまり馴染《なじみ》ではないが手近いところで酒場ペチカの扉を押して入った。
 大入満員だった。相変わらず下級の船乗の顔が多い。
「これはこれはいらっしゃいまし、ドレゴさま。奥の方にいい席がございます」
 ボーイ頭が心得顔に先に立って案内した。
 そこは柱の蔭になっていたが、小綺麗に飾ったいい席だった。彼は強い酒を注文した。ボーイが去ると、すぐ女が来た。彼は今日は用がないからといって女達を無愛想に追払った。
 酒は猛烈にうまかった。ボーイを呼んで、次の分を注文すると共
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