した男は、ドレゴの前まで来ると、どうしたわけか棒のようにしゃちほこばった。
「痛むかい」
彼の介添と思われる船員が、うしろから声をかけた。
「いや。……ちょっと眩暈《めまい》がしただけ……」
その包帯男は、よろよろとなってドレゴの身体にちょっとぶつかったが、
「あ、危い」
と、彼の介添者に支えられて、小汽船へ乗り移った。ドレゴは、通り路があいたので、舷梯をとことこと登っていった。
舷梯を上り切ると、ターナー船長が立っていたので、ドレゴはほっと安心の声をあげて船長の手を握った。
「やあ、ドレゴ君だったね。アイスランド火酒の味が忘れられないで、またやって来たよ」
「船長、二年間も忘れているなんて、そんな法はないですよ。なんだって永いこと、来なかったんですか」
「会社の重役に訊いてくれたまえ。わしたちは命ぜられなければ、行きたいところへも行けないんでね」
「こんどはどうして来たんです。特別の使命ですか」
「可哀そうな記者君。君たちは地獄の港までも紙と鉛筆を持って行くつもりなんだろう。……魚油と毛皮と、それから例の火酒を少々貰いに来たのさ」
「それだけですか。もっともこんな船じゃあね…
前へ
次へ
全184ページ中143ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング