を慰めに現われるのだった。
 そのドレゴが、或る日いつもよりは明るい顔で、エミリーの許を訪れた。エミリーはサンノム老人の下宿の勝手許から、白いエプロンで手を拭きながら出て来た。早くも彼女の手には、ピンク色の絹のハンカチーフが丸まって握りこまれていた。
「やあ、エミリー。今日は珍しい人から手紙が来たよ」
「あら、うれしい。水戸さんから……」
「何でも皆、水戸の話だと思っちまうんだね。違うよ。水戸から手紙が来たんだったら、すぐ電話をかけるよ」
「まあ、つまんない。じゃあ誰から」
「ケノフスキーからだ。モスクワから出した手紙なんだ。これは僕が、約束しておいた手紙なんだ」
「……」
「ほら、これだがね。これを読むと、また面白いことになって来たよ」とドレゴは封筒から出した用箋をひろげながら「こういうことが書いてある。読んでみるよ。――“ゼムリヤ号事件は、まことに不幸な出来事ではあったが、一面から考えると、それはわれらのために全然マイナスではなかった。何故ならばゼムリヤ号がああいう事件に遭わなかったとしたら、わがヤクーツク造船所の技術が如何に優秀なものであるかを、世界の人々はまだ了解する機会を持た
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