としたら、それは、余程の楽天家か、愚鈍の者か、さもなければ哀れむべき想像力の貧困なる者である。コロンブスの船がアメリカ大陸に到着する前において、アメリカ・インディアンが白人の存在を全く考えなかった如く、また黒船が来航する前において、蒸気船を駆使して大洋を乗切っているアメリカ人のあることを知らなかった幕府の役人の如く、この広大なる宇宙に地球人類以外の優秀なる生物の存在を想像し得ない者は真に気の毒なる人間である。
 彼等他惑星の生物が、まだわれわれの前に現われないのは、彼等が真に存在しないのではなくて、まだコロンブスの船がアメリカ大陸に到着する前に等しく、また黒船がまだ浦賀沖へ姿を見せる前と同じ状態にあることを知るべきである。何時《いつ》かは、必ず彼等が来る! それは百万年後のことかも知れないし、或いはまた明日のことかも知れない。どっちにしろ彼等の来航する日は、日一日と近づきつつあるのである。
 果して然らば、地球人類がお互い同士に猜疑《さいぎ》し、堕《お》とし合い、殺戮《さつりく》し合うことは賢明なることであろうか。断じて然らず。われら地球人類は、そういう一切の同胞相食むの愚を即刻捨て去らねばならないのだ。そして直ちに地球防衛の旗印の下に協力し結束し、彼等を迎える準備を急いで始めなければならないのだ。それは必ずしも戦備ではない。いや、戦備よりもむしろ平和的交渉の方法と手段とを研究し用意することになる。地球の上に人類|相斃《あいたお》し合う戦争が永遠に封鎖されなければならないと同時に、大宇宙にもまた宇宙戦争を生ぜしめてはならないのだ。
 大西洋の海底に突如として現われた怪人集団は、地球人類をして、永年繰返された人類同士の戦争に対し見事に終止符をうたせることになった。ウラル号を指して、呉越同舟だなんて嗤う者があったら、それは愚劣であろう。ヤクーツク[#、93−下段−9]造船所は、秘密の耐圧潜水艦を提供し、しかもワーナー博士とアンダーソン教授の希望どおりに短期間に改造を加え、乗組員の全部を提供した。至宝ワーナー博士とアンダーソン教授は、ウラル号にその運命を托したのだ。この快挙を具体化させた者は、ドレゴ、水戸、エミリーの三人と、太《ふと》っ肚《ぱら》のケノフスキーだった。彼等間の友愛と信頼感と感情とが、この事を早く搬んだのであった。

  怪人集団を呼ぶ

 ウラル号は粛々《しゅくしゅく》とした大西洋を南下し、怪人集団の蟠居《ばんきょ》する水域に近づいていった。やがて集団城塞の手前十キロメートルのところから潜航に移った。
 深度三十メートルまで降りると、艦は水平に直った。水中レーダーは、完全に城塞の位置を捉えていた。艦は直進する。
 それから暫くして、アンダーソン教授の手によって、いよいよ生理電波で変調された超音波が城塞へ向けて発射された。これは、
 ――尋ねたいことがある。
 という呼びかけの思想を現わしているものだった。これは十秒に一回の割合で発射された。それと共に、怪人集団から応答があるかと、受音装置が広汎な幅を持って相手の信号を探し続けた。
 だが、何の応答もなかった。
 その日別途に約二百台の集電器が怪人城塞の周囲に投下された。この集電器は城塞の近くに落ちて、怪人たちの発する生理電波を吸収し、そしてそれを水上に浮かんでいるアンテナを通じて放送させ、それをグリーンランド[#「グリーンランド」は底本では「グリーランド」、64−上段−17]の海岸無電局が受信することになっていた。そして更にそれは局より超音波に変えて水中へ放送され、当然ウラル号へも届くことになっていた。ところが、これがうまく行かなかった。そのわけは、怪人集団の警戒心はいよいよ鋭くなって、城塞附近に投下される物に対して監視を怠らず、水面から落ちて来たものは城塞に達するまでに片端から爆破していたからであった。
 ウラル号の使節団は、それに拘《かかわ》らず失望することなく、“尋ねたいことがある”旨の信号を発射し続けつつ、ひたむきに前進していった。
 ウラル号が怪人集団の城塞の手前五キロのところに達したとき、突然艦は真正面より猛烈な外力をうけた。それは怪人集団の城塞よりの攻撃に違いなかった。もしこれが普通の構造を持った潜水艦なら、立ちどころに火の塊と化し去る筈であった。だがわがウラル号の場合はそうはならず、そのまま海中を後方へ一キロばかり押し返された――というよりも叩き飛ばされたのだった。
 もしワーナー博士をはじめ乗組員たちが、緩衝帽衣をつけていなかった[#「いなかった」は底本では「いなかったら」、94−下段−13]としたら、彼等はこの激しい衝撃によって、頭部を壁にぶっつけて石榴《ざくろ》のように割られ、肋骨も四肢の骨もぽきぽき折られてしまったことであろう。だがかのゼムリヤ
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