もあった。最も自信のある手真似通信法を書いて来た者もあった。そうかと思うと、百人の美女を先方へ送って、まず懐柔すべしという説もあった。地球上の御馳走をうんと送れというのもあった。が、どれもこれも靴を隔てて痒きを掻くの流を出でなかった。
その一方において、怪人集団を即時殲[#「殲」の旁は底本では「繊」の旁に同じ形、89−上段−9]滅すべしとの強硬意見が日に増して有力になって行った。テレビジョン送影機を雨下する代りに、なぜ原子爆弾の雨をかの怪人集団の蟠居地域へ送らなかったのかと非難する者さえあった。
とにかく、至急何事かを怪人集団に対してなさねば済まないことが、誰にも分った。だが、その実行方法の適切なるものが知られないために、世界の人々は日毎に焦燥と憂鬱の度を加えていったのである。それと共に、世界連合会議への[#「への」は底本では「の」、89−上段−18]非難は厳しさを増していった。
その結果、遂に世界連合会議は具体的に行動を始めることを発表した。それは実にワーナー博士の遭難から二週間を経た後のことであった。
何を始めたかというと、まずグリーンランドの海岸から、水中を伝わる超音波をもって、毎日のように怪人集団の城塞の方位へ向けて音楽を送ることになった。これは音楽というものが最も精神的な純粋な芸術であるところから、或いは怪人たちにも幾分理解されるのではないかという狙いだった。
その音楽の間に、城塞内に万一捕われて生きているわが調査団員がいるかもしれないというところから、これに対して激励の言葉とそして平和的折衝を懇請する件を、やはり超音波の電話で送ることとなった。
それから、怪人とわが地球人類の交歓の段取を編集し、これを一連の映画に撮影したものを多数こしらえ、映写機及びその回転動力とをつけて荷造りしたものを数百台用意し、これをかの怪人城塞の近くに投下させることにした。
もう一つは御馳走政策で、これは地球上の珍味珍菓を潜水艇に満載し、怪人城塞へ送りつけることだった。
こういう実行案を発表してみると、何だか大いに効果があがりそうに思われて来た。むしろなぜかかることを早急に実行しなかったか、その遅きを残念に思うとの批評も出て来て、当局を悦ばせた。
アンダーソン教授
択ばれた対策は、いよいよ実行に移された。
その効目はどうかと、全世界の人々は、その報告を待ちかねた。だが、その報告は人々の期待を裏切って遷延し、やっと五日後になって発表をみたが、それによると超音波によるメッセージも効果が見えず、映画は届くより前に水中にて焼きつくされ、御馳走船は例の海域の三キロの近くまで行ったときに、突然大閃光と共に火の塊となって空中にまいあがり、跡片もなくなったそうである。怪人集団は何に懲《こ》りたか警戒心が鋭く、そして何一つ受け入れる気持はないらしくみえた。かくて計画は遂に大失敗と判明した。
大失敗と分ると、怪人集団に対する世界の恐怖と激昂とは、ますます強くなっていった。
どうすればいいのか。だから躊躇するところなく怪人集団の海底城塞に大攻勢を加えるという主戦論は、いよいよ高まった。そして、平和的手段を要望する側の気勢は、反対に静けさを加えた。
アメリカのユタ州の技術大学のアンダーソン教授が、始めて一つの対策研究を発表したときは、実はあまり世界の注目を惹かなかった。そのときはもう全世界が深い絶望感に捉われていて、またしても対策案かという低調な態度でこれを眺めたからであった。
そのアンダーソン教授の研究というのは、次のようなものであった。
およそ頭脳を持つ生物は、それが頭脳を使用したときには、その思考に応じて特有な電波を輻射《ふくしゃ》するというのである。これを分りよく説明すると、生物が悲しめばその悲しみの波形を持った電波が出るし、また悦べば、その悦びの波形を持った電波が出るというのである。但しこの電波は、波長が非常に小さい上に微弱であるために、これを受信し検出することは相当むずかしいことであるために、従来発見されることが殆んどなかったのだという。ア教授は、もう十年も前からこの種の研究に手を染めていたが、非常な困難な研究であるので、最初の七年間は全く何の成果もあがらなかった。漸くにしてこの三年間、教授はこれを受信し、それを増幅することに成功したが、しかしその結果はこれまで発表せずに至った。それはその実験方法の検討がまだ十分教授の満足する程度にまで至っていなかったためと、なお多少の補充的実験が残っていたがためである。丁度今から一ケ月程前にそれが一通り完了したので、教授はこれからその研究の整理をして、やがて学界に発表しようと思っていた折柄、こんどの怪人集団事件が起ったのであった。
教授は、この画期的なる新研究をこんどの事件に利
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