潜水艦を手に入れなければならない」
「潜水艦? そんなものはアメリカにたくさんあるんだろうに……」
「アメリカのでは駄目。ぜひヤクーツク[#、87−上段−7]造船所製のものが必要なんだ」
「ヤクーツク[#、87−上段−9]造船所のものが……。だってあそこで潜水艦を作った話は聞いていないぞ。それに、何もわざわざあんなところの手を借りなくても……」
といいかけてドレゴは出かかった言葉を急に嚥みこみ目を皿のように大きくした。
「……そうか、あの一件だな、ゼムリヤ号の耐圧力……」
「そうなんだ。あのすばらしい耐圧力を持った潜水艦がぜひ欲しいんだ」
「ふうん、それは……それはどうかなあ、果たしてうまく行くかなあ。困難だねえ、大困難だねえ。それにあそこで潜水艦をこしらえたという話は一向耳にしていないからね」
「たとえこれまでに建造したことがなくっても、今度ぜひ建造して貰わねばならないのだ」
「大困難。不可能。たとえ百の神々が味方したって、まず絶望に近いね」
怪人対策の懸賞募集
水戸はドレゴの家に隠れて生活することとなった。
ドレゴは、水戸の顔を見るなりエミリーの恋を水戸に伝えたく思ったが、仲々その機会がなかった。それでもその翌朝は、彼に伝えることに成功した。だが水戸は一笑に附しただけであった。ドレゴは不満であった。東洋人というやつは、なぜにこう人間味がなくて枯れ木のようなんだろうと。
エミリーに一度会ってやることを薦《すす》めもしたが、水戸は一層強くそれを断った。サンノム老人の下宿へも帰れない現状において、どうしてエミリーに会えるだろうかというのだった。ドレゴは反駁《はんばく》して、エミリーは水戸のためなら水火も辞せない女だから、秘密を他へ洩らすようなことは絶対にないと力説したが、水戸は頑固にそれを受入れなかった。そしてソ連へ入国する機会を早く得てくれるようにと、ドレゴに一所懸命頼んだのであった。
そのことについては幸いにもドレゴがケノフスキーと取引関係があったので、相当便宜を図れるかと思われた。そこで彼はケノフスキーへあてて、至急会いたき旨の電報をつづけさまに数通も打った。しかしどういうものか、ケノフスキーからの返電は一度も来なかった。水戸は、見苦しい焦燥の色も見せはしなかったが、彼は次第に無口の度を加えた。
その頃、新聞やラジオは、大西洋の特定水域の航行航空禁止を報道すると共に、アメリカ空軍が空中よりテレビジョン送影機の投下を行いつつあり、それは相当の効果をあげている旨を伝えた。それに続いて、そのテレビジョンが新聞写真とニュース映画とによって、世界の人々の目にうつるようになった。しかしそのテレビジョンをそのまま受信して公開することだけは禁止されていた。
今や大西洋海底に怪人集団が蟠居していることは世界の隅々まで知れ亙った。そしてそれに対抗する手段が活発に議論せられるに至った。小田原評定をつづけていた世界連合の臨時緊急会議も漸《ようや》く肚《はら》が決まったらしく、テレビジョン偵察の快挙を支持し、なおこれが更に積極的なる平和的解決に利用されるようにアメリカ当局に対して要請するところがあった。ところが世界連合としては、これまで一向適切な具体的な平和手段を採択することが出来ず、世界各地から非難を浴びつづけであったため、遂に思い切って、その具体案を広く全世界から募集する旨を発表した。すなわちその募集文の一節に、
“――この際最も必要とするところは、如何なる方法により、かの怪人たちとわれわれとが意志の疎通を図ることが出来るかという問題にある。この問題が解決しないかぎり、われわれが如何に平和的解決を望んでいたところで、その目的は達せられないのだ。有能なる世界の人士たちよ。至急知力を働かして、この問題について適切なるアイデアを本連盟へ提供せられんことを。われら地球人類の安危は、一にこの問題の解決如何に懸っているのである。云々”
というような文句があるのを見ても知られる。
この対怪人意志疎通法の募集は、世界始まって以来の莫大なる懸賞付で行われた。その一等には、地中海にある一孤島に広大豪華なる文化施設を施し、交通通信設備を完備し、向う百年に亙っての孤島経営生活費を提供し、その孤島は永世中立として他より侵犯せらるることなきを保証するというのであった。
このすばらしい懸賞は、世界中の人々をわくわくさせた。そしてその効果は大いにあって、世界連合の会議には毎日応募者の手紙が山のように積まれた。
だが、やっぱり探し求めている適切なる意志疎通法はどの手紙からも発見されなかった。あらゆる単語を一々美しい絵入りで説明したものをまず送っておけという説もあった。喜怒哀楽とか、平常よく繰返される行為を、トーキー映画におさめて送りつけてはという説
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