声で叫んだ。
「あッ、やられた。このへんにぶら下っていたテレビジョンの籠がやられてしまった」
 そういっているとき、また、ぱぱッぱぱッと幕上の相ついで閃光が二人の目を射た。
「おいドレゴ君、分るかい。折角投げこんでおいたテレビジョンの送影機が、今|片端《かたはし》から破壊されて行くのだ」
「ええッ、何だって」
「送影機が片端から壊《こわ》されて行くんだよ。あっ、光った。見たかね、怪人集団の城塞に、小さな灯がつくと、すぐそのあとで送影機が爆発してしまうんだ。城塞から何か出しているよ、怪力線か放射線か、何かそういう強力なものを……」
「すると怪人集団が、あの籠を見つけて壊しにかかっているんだろうか」
「そうらしい」
 といっているとき、幕面がぱっと白くなって映像が消えてしまった。
「あっ、やられた」
「えっ」
「今まで像を送ってくれていた送影機がやられちまったんだ。ああ、それで分った。さっきもこんなことがあったね。あの前の送影機もやられちまったんだ」
「すると、怪人集団がどんどん送影機を壊しているというわけか」
「そうなんだ。それに違いない、早くも彼等は悟ったんだね。テレビジョンで見張られていては都合が悪いというんで、どんどん壊しにかかっているんだ。ああ、折角の名案も効なしか」

  変装の友

 ドレゴは落ちつかぬ心を抱いて、グロリア号から埠頭へ戻った。
 小蒸気船からあがるとき、彼はポケットに手を入れて金をつかみ出した。と、金に変って、彼の持ち物ではない小さいナイフが一挺入っていた。どうしたわけだろうと訝《いぶか》りながら、そのときは深く気にも留めず、船長に料金を払った。
 海岸通は明るく灯がついて、いつものように客で賑っていた。
 彼はすっかり精神的に疲労を感じていたので、早く一杯やりたかった。そこで、あまり馴染《なじみ》ではないが手近いところで酒場ペチカの扉を押して入った。
 大入満員だった。相変わらず下級の船乗の顔が多い。
「これはこれはいらっしゃいまし、ドレゴさま。奥の方にいい席がございます」
 ボーイ頭が心得顔に先に立って案内した。
 そこは柱の蔭になっていたが、小綺麗に飾ったいい席だった。彼は強い酒を注文した。ボーイが去ると、すぐ女が来た。彼は今日は用がないからといって女達を無愛想に追払った。
 酒は猛烈にうまかった。ボーイを呼んで、次の分を注文すると共に、彼へチップを、はずんだ。
 彼の掌の上に、またもや彼の持ち物ではないナイフが載った。彼はそのことを改めて思い出した。
「どうしてこんなものがポケットに入っていたんだろう」
 彼はそれを捨てようとして隅っこへ放りかけた。が、ふと気がついて、それをやめると、掌をひらいてそのナイフにじっと見入った。
 彼の顔が紅潮して来た。彼は拳でぽんと卓子の上を叩くと、顔色をかえて立上った。
「……おお、これは水戸のナイフだ」
 そのとき彼の腕をしっかりと抑えた者があった。ドレゴはその方へ振向いた。毛皮の長い外套を着、頭には同じく黒い毛皮の帽子をすっぽり被り、首のところを――いや顔の下半分をマフラーでぐるぐる巻き、茶色の眼鏡をかけた男が立っていた。
「しずかに……。御同席ねがえましょうかな」
「君は誰?――ああ、そうか……」
「しずかに。重大なんだ。極めて重大なんだから……」
 その毛皮の男はドレゴを席に戻すと、自分もその横にしずかに腰を下ろした。ボーイが来たので、ドレゴは同じ酒を注文した、咽喉にひっかかったような声で……。
 ボーイが向こうへ行ってしまうと、ドレゴはじっとしていることに、汗をかいて努力をした。しかし彼の靴は床をハイ・ピッチで叩きつづけている。
「……心配したぞ」
 もうこれ以上|怺《こら》えきれないという風に、ドレゴが相手に囁いた。
「うん」相手は肯いた。
「僕が今自由の身になってこの町にいるということが知られては、非常に拙《まず》いんだ」
「そうか」
「しかし君の力を借りないでは、僕は思うように行動がとれないんだ」
「力は貸そう。で、身体はどうなんだ。一行全部遭難して全滅だと伝えられているが……」
「それは心配するな。少くとも僕自身は大した負傷でもない」
「それを聞いて安心した。このナイフは君へ返しとこう。いつ僕のポケットへ突込んだのか」
「あの汽船の舷梯の下で……」
「あっ、あのときか」
 ドレゴは大きく目をあいて、友の顔をまじまじと見返した。
「頭から顔にかけてぐるぐる包帯を巻いていた怪我人が君だったのか」
「叱《し》ッ」
 ボーイが酒を置いて、卓子の上を拭いていった。
「これから何をしようというんだ、人々の目から隠れて……」
「むずかしい使命だ、ワーナー博士からの切なる懇請によって……」
「ワーナー博士も無事なのか」
「まあねぇ」
「で、何をするって」

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