。「君も加瀬谷の門下だから、わしが話してやっても多分分るまい。わしはこのごろ気がかわって、従来とはちがって無駄なことは喋らないことにした。そのかわり、実際の物をつかまえて、さあこのとおりだ、よく見ろ――というふうにやることに変更した」
「では、こんどのご旅行も、火星の運河などを写真にとって、実際私たちにみせてくださるためなんですか」
「火星の運河? あっはっはっ火星の運河などがあってたまるものか。火星に運河があるというのは、火星の表面に見える黒い筋を運河だと思っているのだろうが、それは大まちがいだ。船みたいなもので交通しなければならぬような、そんな未開な火星ではない。地球上の常識で、運河説を得々と述べる者は、身のほど知らぬ大馬鹿者だというよりほかない」
轟博士の語気は、老人と思われぬほどつよかった。
「では、運河みたいなあの黒い筋は、いったいなんですか」
と僕は聞かないではいられなかった。
「さあ。あの黒い筋がなんであるか、それをわしが説明しても、君はやっぱり信用しないだろう。さっきいったように、わしは当分喋ることはやめて、そのかわりに実際的なものを地球の人々の目の前にもっていって
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